もこん炉物語 Ⅰ | MOKONRO

2020/10/12 23:13


もこん炉が、物語になりました。

ただいまインスタグラムで連載中です。

著者:はんだあゆみ様
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誰かを責めるのは、自分を責めることでもあるからできるだけしたくない。

 

それでも生きていれば時々誰かとぶつかって、私が悪かったのだろうかと自分を責める日がある。

 

今日もそんな日。

せっかく天気の良い休日なのに、私は昨日の職場のトラブルをまだ引きずっている。

 

「単なる伝達ミスじゃないですか? フォローもできたし、そんなに怒ることですか?」

若い営業職の男の子は、気色ばむ私に向かって呑気にそう言った。

 

私の職場は海のそばにある雑貨店。

春から秋にかけては来客も多く稼ぎ時だ。

今は夏も終わりかけ。

昨日から、夏休みのラストスパートでサマー感謝セールが始まることになっていた。

 

ところが、セールで売るはずの商品が足りず、

確認するとこちらの発注ミスだというではないか。

幸い問屋にはまだ在庫があったので、超特急で届けてもらって事なきを得たが、

私は営業の男の子に確認が甘すぎるんじゃない? と注意した。

 

もともと私は彼が苦手だった。

何があってもヘラヘラしていて反省しているところを見たことがない。

ポジティブと言えばそうなのかもしれないけれど、私には理解できない。

 

「あのね、今回はたまたま在庫があったからよかったようなものの、足りなかったらセールに間に合わなくって大損出してたのよ? 自分のミスだってわかってる?」

 

「わかってます。でも反省してしょんぼりして見せたからって、それで何かいいことありますか? うまくいったなら結果オーライでいいんじゃないですか? 同じミスを二度はしませんし」

 

言い返されてぐっと詰まった。

 

そうなのだ。

結果、うまくいってはいるのだ。

 

「ばっかもーん! たるんでるからそういうことになるのだ!」

 

と昭和のおじさんのように怒ったってしかたがない。

 

(でも、ごめんなさいくらい言ってもいいんじゃないの?

私の心が狭いの?

どうも、若い子たちとの間にふかーい溝がある気がするんだなぁ)

 

考え出すとその溝ばかりを探してしまう。

こうなるとなかなか浮上できないのが私なのだ。

 

うじうじ考え込んでいると玄関のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、あの営業の男の子が立っている。

 

(あれ? なんでうちを知ってるのかしら?

あ。そういえば去年、旅先から暑中見舞いの絵葉書を送りたいからって、住所聞かれたっけ)

 

“そちらは猛暑ですか? こちらはサイコーです!”

と太字ででかでか書かれた知床の絵葉書を見て、イラっとした記憶がある。

 

彼は悪びれた様子もなく、にこにこしている。

赤いキャップをかぶってサングラスをかけて、短パンにリュックを背負っている。

 

「いやー、いい天気ですねえ。先輩、一緒に浜でご飯食べませんか?」

 

なんて能天気な?!

あなたのせいで、私は今日も朝からぐずぐず悩んでいるというのに。

 

「やることがあるから、行けません」

 

冷たく言うと

 

「それ、夕方までに終わります? ご馳走しますから付き合ってくださいよ」

 

とさらに詰め寄ってくる。

 

本当は何の予定もないのにいじわるを言うのが面倒になり

 

「わかった。夕方また迎えに来て。どこに行くの?」

 

と答えると

 

「浜ですよ。海でご飯です」

 

と、にかっと笑った。

 

夕方までは、部屋の片づけや本を読んだりして過ごした。

 

ケンカした、すれ違ったと思っていた相手が、実は何とも思ってないなんてよくあることなのかもしれない。

そうだったらいいな。

平和が一番、ケンカは嫌だ。

 

夕ご飯がうっかり楽しみになってしまった。

Tシャツとジーンズに着替え、お気に入りのスニーカーを玄関に並べる。

 

五時きっかりに彼がまたやってきた時、今度は自然と笑顔が出た。

 

「先輩、自転車ありますか?」

「ないわよ」

「じゃあ、後ろに乗ってください」

「ええっ?」

 

二人乗りなんて高校生以来だ。

こわごわ乗せてもらうと

 

「飛ばすんで、つかまっててくださいね」

 

と、すごいスピードで走り出した。

 

背中の彼のリュックには、何か四角いものが入っているようで、

ブレーキのたびコツンとあたる。

 

「ねえ、これ、何が入ってるの?」

「もこん炉です。知りません?」

「知らない」

「便利ですよ。俺、前から好きで使ってます」

「もこん炉ってなに?」

「あとでわかります」

 

彼は海の近くのスーパーに寄ると、買い物かごに、イカ、エビ、ホタテ、牛肉など放り込んでいった。

 

「ちょっと待って、これ、どうするの?」

「焼くんですよ。そのためのもこん炉ですから」

「料理なんてできるの?」

「材料を焼くだけですもん、誰でもできますよ」

 

何を食べさせられるのかだんだん不安になってくる。

 

海のそばの松林につくと、切り倒された松の木が輪切りになって並んでいる。

 

「その辺の手ごろなのを椅子にして座ってください。腹減ってます?」

「うん」

「じゃあ、始めますね」

 

彼はリュックの中から麻でできたきんちゃく袋を取り出した。

中から二の腕くらいの長さの角材が出てくる。

これがコツンとぶつかってきたものの正体だったのか。

 

「もこん炉です。見ます?」

 

ひょいと渡してくれたものを受け取ると、ただの角材ではなく上部に十字の切込みが入り側面には窓が開いていた。

 

窓は四葉のクローバーの形。

中には松ぼっくりがコロンと入っている。

その背面には窓がなく、代わりに「MOKONRO」の文字と円を組み合わせた不思議なロゴマークの焼き印が押されている。

十字の切込みを上から見ると丸い穴が窓までつながっている。

 

彼は手早くその辺の松葉を集めると、砂地を平らにならした。

 

「先輩、もこん炉ください」

 

風の向きを見ながら、もこん炉の窓をどちらに向けるか考えているようだ。

 

「よし、こんなもんかな」

 

そういうと、ポケットからライターを取り出し窓の中の松ぼっくりに火をつけた。

 

「え? 燃やしちゃうの? こんなにかわいいのに」

「かわいいでしょ? でも、もこん炉が燃えてくれないと俺ら夕飯食えないんで」

 

彼はそう言いながら松葉を上から投入し、紙皿でパタパタあおいでいる。

 

やがて松ぼっくりの火は松葉に燃え移り角材本体にも火が付いたようで、十字の切込みから炎がちらちらと出てくるようになった。

 

リュックの中からスキレットをとりだすと、もこん炉の上に乗せる。

油を入れ全体に回るようにゆっくりと手首を動かす。

 

「先輩何から食べますか?」

「じゃあお肉で」

「了解!」

 

熱が回ったスキレットに、分厚い牛肉を乗せジュウジュウ焼けるのを待つ。

いい匂い。

 

ひっくり返して反対側もじっくり焼く。

塩コショウを振り、香ばしく焼きあがったステーキをトングでつかんで紙皿の上に乗せた。

 

「まさか、このままかぶりつくの?」

「そんな野蛮なことしませんよ。次の食材を焼くのでちょっと待っててください」

 

彼は手早くエビをスキレットに放り込み、ステーキに戻ってきた。

トングでつかみ上げると、はさみでじょきじょきとカットしだす。

 

「ハサミ?!」

「これ、キッチンバサミです。洗ってあるからきれいですよ」

「そういうことじゃなくて、お肉をはさみで切るところなんて初めて見た」

「はは。初めてですか。熱いから気を付けてくださいね」

 

そう言いながら割り箸を渡してくれる。

 

おいしい!

びっくりするくらいおいしい。

味付けは塩コショウしかしてないのに。

 

「昨日のお詫びですから好きなだけ食べていいですよ」

「お詫びって、悪いと思ってたの? あんなに呑気そうにしてたのに?」

「いや、悪いとは思ってないですよ。そもそも俺のミスじゃないですし」

「どういうこと?」



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